弁護士のブログBlog
裁判官弾劾裁判所(裁判長・船田元衆院議員)は、このほど(令和6年4月3日)、岡口基一裁判官(元東京高裁判事)を「罷免」する判決をくだした。弁護団に限らず、良識的な法曹関係者であれば、今回の「罷免」判決は、「最初から結論ありき」で、「重きに失する」との印象を受けたのではないか。
巷では、自民党派閥の裏金問題で、旧安倍派ら自民党関係者にくだされた「処分」が「軽すぎる」との評価から、「市民感覚とのズレ」を指摘する報道がある。
だが、その一方で、岡口判事の「罷免」判決について、罷免判決(法曹資格の剥奪)が「重過ぎる」との評価から、われわれ「法曹」がもつ「法曹感覚とのズレ」を指摘する報道は、寡聞にして聞かれない。裁判官弾劾裁判所の多数意見は、「遺族の声」にだけ、もっぱら耳を傾け(「過剰反応ではないか」という疑問は封鎖される。)、マスコミも、もっぱら「遺族の被害感情に寄り添う」多数意見に同調し又は沈黙する。岡口判事のSNS投稿が悪趣味で「軽い」と言われればそれまでだが、SNSによる安易な発信「表現」と、「罷免」判決の重みにとの著しい不均衡、少なくともわれわれ法曹の「法曹感覚」に照らした場合の「罷免」への違和感については、報道されないし、殆ど語られもしない。
判決起案者(階猛議員)は法曹資格者のようであるが、彼のバランス感覚は一体いかほどのものなのか?と疑問符がつく。
断っておくが、私は、岡口判事のシンパではない。
だが、「法曹の端くれ」として、「罷免」判決に強い違和感を覚える。
「何処に」最も違和感を覚えるのか?。暗黙のコンセンサスのもと(「裁判対策」という名の「都合」のためか?)、事件の問題の核心部分が、一部欠落してしまっているのではないか、との印象を受けるからだ。弁護団が大変な努力をされたことは認めるが、「事件の本質的部分」が一部、不当に度外視されていないだろうか? 端的にいうと、「最高裁には何の落ち度もなかったのか?」と疑問符をもつか否かで、事件の景色は全くちがって見えたのではないか。岡口判事の弁護団を含め、法曹関係者にとって、最高裁という存在は、「タブー」であり、「アンタッチャブル」な存在なのだ。しかしながら、この「タブー」ゆえに、世間的には、「事件の本質」から目を逸らし、不当に歪められた報道・審理がまかり通っているのではないか?
確かに岡口判事は、「・・・・を持った男」、「・・・・の女性」との紹介記事をもとに、猟奇的な殺人事件判決を紹介することは悪趣味といえる。
しかしながら、当該刑事事件判決を公開したのは、他ならぬ最高裁である。しかも、当該刑事事件の犯人像に係る前者の記述部分は、岡口判事の創作ではなく、刑事判決の認定事実そのもの(文面そのもの)である(また、彼のツイッター読者の多くは、法曹関係者が想定されていたのではなかったか)。岡口判事が当該刑事事件判決を拡散させることで遺族感情を傷つけたというのであれば、最高裁としても、このような刑事事件判決をホームページに公開すべきではなかったといえよう。そして、最高裁の対応としては、岡口判事を叱責して、SNS投稿を削除させておけば、それで済んだだけの話ではなかったか。
ところが、最高裁は、岡口判事のSNS投稿の拡散状況をみて、多分「しまった。」と思ったに違いない。自らは、即座に涼しい顔をして、裁判所ウエッブサイドでの当該刑事判決の紹介記事を削除する一方で、自らは公式に謝罪せず、東京高裁の対応として、その紹介記事がSNS上で拡散してしまった責任の全てについて、岡口判事(当時東京高裁判事)のツイッターを、(他の猥褻記事とともに)いわば「スケープゴート」とし、遺族の被害感情がもっぱら岡口判事の方に向かうように仕向け、責任を転嫁してしまったのではなかったか。岡口判事には、遺族を侮辱する意図など毛頭なく、もとより被害者を冒瀆する意図など絶対になかったはずだ。「遺族は東京高裁に洗脳されている」という彼のツイートは、最高裁事務総局と一体化した東京高裁への怒りと揶揄でしか説明がつかないはずだが、遺族には誤解(又は曲解)され、弾劾裁判所にも曲解されてしまった。
ところが、驚いたことに、岡口判事の弁護団は、「(岡口)判事は他者の感情を理解できない障害(の持ち主)」などという、私の「弁護感覚」からすれば、およそ「的外れ」な弁護方針に切り替えてしまった。現役の裁判官に対し「(岡口)判事は他者の感情を理解できない障害(の持ち主)」(アスペルガー症候群の患者に特徴的な「共感」力の欠如)などとレッテルを貼ってしまえば、そのこと自体が、裁判官として致命的ではないのか? このような弁護団の対応の裏側には、「アンタッチャブル」な最高裁を「敵に回したくない」という思惑が透けて見えるように思えるのは、私だけであろうか?
以上要するに、「皆が寄ってたかって、岡口判事を貶めた」かのように目に映るのは私だけであろうか?